踊り子に軽口を叩ける騎士様なんて初めて見た。

シルヴィアがいつもの調子でくるくる回って可愛い顔で挨拶しても、大抵の騎
士様ときたら困惑するか照れて挙動不審になるかの二択だ。
騎士様というものはそんじょそこいらの男共と同じ感覚を持ち合わせていない。

そんな(シルヴィアにとっては)はた迷惑な存在に敬意を示し、
様付けをして精神的に遠ざけてみたりとか。

「あんたくらいよ。私の相手をしてくれるのは」

シルヴィアはため息をつく。
この男、アレクはシルヴィアが出会ったどんな騎士様よりも俗物だ。
俗物以上に俗物なので、もしかしたら俗物の逸材かもしれないとさえ思ってしまう。

「そりゃあね」
「ほんと、こんな時にまで飽きないものだわ」

火傷をしないように底の暑いブーツを、肌を焼かないように大きなマントを与えて、
飲料水を馬に積み、シルヴィアに影を作るように馬を進ませながらアレクは砂漠を進んでいる。

「あんたくらいよ」

ため息に陽炎が揺らめいた。

「今でも私の相手をしてくれるのは」

涼しい声でアレクが笑うものだから、今にも熱中症で倒れてしまいそう。

熱砂よりも熱い恋に、とっくの昔に落ちている。