ある日パティがコープルに教えてくれた。
この杖はバルキリーといい、ブラギ直系の者にしか扱えないのだ、と。
話す調子は明るく、まるでいつものパティのようだったけれど、しかしいつものパティとは違っていた。

「コープルは大きくなったら神父様になって、そしてみんなの話を聞くようになるんでしょ」

だから私の話を聞いてよ。
そう言いたいのがパティの口調から伝わってくる。
コープルはリブローの杖を握り締めた。
この杖を扱うのすら手一杯の自分が神父になれるのか自信がなかった。

「私は」

パティも杖を握り締めた。

「きっと練習したらすぐにコープルよりも杖を使うのが上手くなるけど、きっときっと私はいつまでも練習しないんだわ」

豪奢な装飾の杖は、兄のイチイバルと共に孤児院のみんなの心の支えだった。
本当の本当にに辛いときにこれを売ればしばらく食い繋げられる。
そんな風に思っていた。

けれど、それは使い方として間違っていた。
人々を真の意味で救済するような力がこの杖には備わっていたから。

「僕には難しい話です」

俯いて杖を見つめる。
光輝く宝玉が、初めて杖を持った時に自分には無限の可能性があるのだと思わせてくれた宝玉が、ひどく力のないものに見えた。

「コープルはまだ子供だもんね」

仕方のない声で呟くパティの顔を見上げれば、いつもよりもずっと大人の顔。
きっとパティにも難しい話だ。
そう言うつもりだったのに、パティの言葉に素直に頷くことしか出来なかった。