群生している花を行軍中に見つけた。
その美しさはきらびやかというよりは質素なもので、そのような花を摘む姿は姫である自分には不似合いだとラケシスは判断した。
しかしとても心惹かれた。これは事実である。
城へ戻り休息を取っていると、程無くして数人の兵士達の話し声が聞こえてきた。
何でも花を渡しながらプロポーズを試みるらしい。
嫌な予感がして彼らに目を向けてみればその手には先程の花。
汚された気がした。もう花は輝いて見えなかった。
「ラケシスさん、どうしたの?何か辛いことでもあった?」
掛けられた声に振り向くとそこにはデューがいた。
その手にはあの花が。
「大丈夫よ」
「大丈夫じゃない顔してるよ」
「そうね。頭痛があるかもしれないわ」
適当なことを言って追い返そうとするが、ラケシスの意に反してデューは顔を明るくさせる。
「ちょうどいいや。だったらこの花をあげるよ」
ああ嫌だ。気分が悪い。
嘘の頭痛が本当になりそうな気配さえしてきた。
「私はそんなものいらないわ」
「頭痛に利く薬草だよ」
無邪気な笑顔でにこっと笑い、デューはラケシスの手にそれを押し付ける。
そして一言お大事にと告げ、ラケシスの前から立ち去った。
(薬草ね…)
エーディンに尋ねると、確かにこれは薬草だと教えてくれた。
しかしどうにも薬草を一輪持ち歩くというのは不自然である。
こういうのはある程度の量を袋に詰めるものではないのか。
デューの持ち方はまるで女性に花を贈るような持ち方だった。
(でもまあいいわ)
高貴なお姫様のラケシスへの男性からの贈り物といえば、胸焼けを起こしそうなくらい豪華絢爛な宝石が定番である。
だから素朴な優しさのあるあの花に惹かれたのだった。
金銀財宝に目がない盗賊の少年のこと。
ラケシスに相応しい宝石を贈るのなんて造作もないはずだ。
それなのに彼はラケシスにあんなに不似合いな花を贈ろうと考えた。
ラケシスは花瓶に挿した花に目を向ける。
ラケシスの所持する花瓶にはその花は不釣り合いだった。
それでもこの花が美しく、ラケシスの心を潤しているのは変わらない。
思わず、笑みが溢れた。