アレスの怒りはセリスに向けられている。
父親同士の確執だとか誤解だとかはデルムッドには関係ない。

問題は、デルムッドの父親がアレスを優先したことである。

アレスの剣の力強さにデルムッドは一目で魅了された。

神器を扱うからというだけではない。
圧倒的な質量を伴って胸に迫るその危機感。
それはジャバローの教え。

そしてジャバローにアレスを預けたのは誰でもなくデルムッドの父親である。

王子だから実子よりも大切にされるのか。

そんな考えが過ってしまった途端にデルムッドの心臓を苛立ちの針が刺激する。

アレスは剣をセリスに向け怒りを露にする。

それがジャバローの教えならば、父がアレスをジャバローに預けた結果ならば、デルムッドもその行為を真似することで父の影に近付ける。

頭ではそういう風に考えてみても、ティルナノグで育ったデルムッドにそんなこと出来るはずがない。

デルムッドに出来るのはひとまず二人を仲裁することくらいである。
それからラナとナンナを呼んで、二人の気持ちを落ち着かせて。

ぽつりとアレスが、

「顔の広いお前が羨ましい」

と言った。

どっちの方が。