一年が過ぎてもラケシスは戻って来なかったので、ナンナはちょうど一年前に花瓶を割ってしまったのがばれているのだと思った。

悪事をひた隠しにするような子を兄に会わせることなんて出来ない。
そもそも、そんな悪い子は自分の子供ではない。
きっとそういう風に思われてしまったのだ、と。

フィンやリーフの目を盗んで客間の小さな戸棚の奥を覗けば、割れた破片はそのままにそこに居座っている。

母は気付いてはいなかった。

だとすればどうして?
ナンナが他にも悪いことを隠してたから?
それとも兄と暮らすのが楽しくてナンナのことなんて忘れてしまった?
それとも、それとも、もしかして、それとも……

溢れた涙をフィンに見付けられ、花瓶のことだと勘違いされて懸命に励まされた
けれど、その検討違い具合がナンナの心細さに拍車を掛ける。

大人だって全てを理解出来ないのに、幼い自分に母が戻って来ない原因など分かるはずもない。

ただひたすら、不安で足元を掬われそうになる。