風に囁かれて自分の血筋を理解した。
しかし、ナンナの父親は不明。
そういうことになっていた。

「ナンナは行かないのか」

広間の扉の前で手持ち無沙汰にしているとフィンが尋ねてきた。
中ではレヴィンが諸国の動向やリーフの今後の進退について話している。

「私はいいのです」

初めてレヴィンがレンスターを訪れたとき、ナンナはまだ風の声を聞けなかった。

『そいつが父親のいない子か』

レヴィンにそう言われ、睨まれた。
ナンナに風魔法の才能がなかったのがいけないのか、
それともナンナが自分の子というのを知らないのか、理由は全く分からない。

「私はいいのです、お父様」
「そうか」

ナンナの父親はフィンだ。
レヴィンに睨まれて、咄嗟に言い返してしまったから。

フィンは扉を開けて中へと戻る。
解放軍について語っているのが少しだけ聞き取れた。

扉に額を押し付ける。
厚い扉は音を通さない。

フォルセティを継承した兄が父に頭を撫でられている様子を想像すると胸がたまらなく苦しくなる。
兄と自分が再会出来れば、自分も父に頭を撫でられるようなことがあるのだろうか。

今、この部屋に入りたいのは、フィンの顔を見たいから。
父に慰められたいから。

扉に頭を押し付ける。
厚い扉は開かない。